機械にまかせず、火のとなりで待つ。灯火珈琲の焙煎は、数字ではなく、音と香りと色で決めています。ここでは、その手つきについて話します。
二〇一六年、西陣の古い織屋の一角を借りて火を入れました。昼は織機の音、夜は静寂。私たちが焙煎を深夜に移したのは、豆のはぜる音——一爆(ファーストクラック)の乾いた響きと、二爆の細やかな連なり——を、雑音なく聴きとるためです。火の声を聴くには、街が眠っている必要がありました。
生豆の緑から、狐色、そして深い墨色へ。一八〇度で水分が抜け、二〇〇度でメイラードが香りを結び、二一五度あたりで一爆。ここから先は一秒の判断です。宵闇は二二〇度で火を落とし、白夜は二〇二度で止める。その数度の差が、一杯の夜を決めます。
見きわめ、火を落とす
深く焼くことと、焦がすことは違います。私たちが目指すのは、火で豆に灯をともすこと。苦さの奥に甘さがあり、その甘さの底に、はじめて西陣の夜が見える——そんな一杯を、一釜ずつ焼いています。