焙煎について — On Roasting

一釜ごとに、立ち会う。

機械にまかせず、火のとなりで待つ。灯火珈琲の焙煎は、数字ではなく、音と香りと色で決めています。ここでは、その手つきについて話します。

其の二 ── 織屋の火

西陣の、路地の奥で。

二〇一六年、西陣の古い織屋の一角を借りて火を入れました。昼は織機の音、夜は静寂。私たちが焙煎を深夜に移したのは、豆のはぜる音——一爆(ファーストクラック)の乾いた響きと、二爆の細やかな連なり——を、雑音なく聴きとるためです。火の声を聴くには、街が眠っている必要がありました。

其の三 ── 火加減

焙煎の、温度。

生豆の緑から、狐色、そして深い墨色へ。一八〇度で水分が抜け、二〇〇度でメイラードが香りを結び、二一五度あたりで一爆。ここから先は一秒の判断です。宵闇は二二〇度で火を落とし、白夜は二〇二度で止める。その数度の差が、一杯の夜を決めます。

220°C

見きわめ、火を落とす

  • 180水分が抜ける
  • 200メイラード
  • 215一爆
  • 220宵闇・火を落とす
  • 202白夜・止める
其の四 ── 四つの節

焙煎の、四つの節。

  1. 蒸らし 生豆に熱を含ませ、水分をゆっくり追い出す。まだ香りは眠っている。
  2. 色づき 糖とアミノ酸が結び、香りの骨格ができる。狐色がひろがりはじめる。
  3. 一爆 豆がはぜ、体積がひらく。甘さが立ちのぼり、焙煎所の空気が濃くなる。
  4. 見きわめ 香りと煙を読み、火を落とす一瞬を選ぶ。ここに焙煎のすべてがある。

焦がすのではなく、すこと。

深く焼くことと、焦がすことは違います。私たちが目指すのは、火で豆に灯をともすこと。苦さの奥に甘さがあり、その甘さの底に、はじめて西陣の夜が見える——そんな一杯を、一釜ずつ焼いています。